ノーカムセイルのチューニング

QS.Nさんからの質問

ノーカムセイルをパワフルにセッティングする方法を教えてください。特にバテンのテンションはどのくらいが良いのでしょうか。最近カムセイルに辛さを感じてノーカムを好んで使うようになった51歳のスラローマーです。

Aパワフルに、というのはどのような状況においてでしょうか。基本的にノーカムセイルはカムセイルよりもパワフル=ローエンドパワーが強い、です。すなわち走り出しにおいてパワフル。そしてオーバーにおいてもパワフル(オーバーに弱い)。ただしカムセイルを使い慣れた人にとっては、走り出しのパワフルさに感覚的な違いがあり(単に重いか、加速力に優れるという意味でのパワフルか)、その違いに対応しにくいことも確かでしょう。

もし加速力にパワフルさが欲しいとするなら、一般的にはアウトテンションで対応します。アウトを少し緩めることでドラフトに深さを作り出し、その深さによって風を捕らえて加速するということです。このとき、くれぐれもダウンまで緩めてしまわないこと。ダウンを緩めると加速時の重さとなってパワフルになったと感じられますが、いざ走り出したあとのポテンシャルが著しく低下し、スピードが頭打ちになってしまうので注意です。

バテンテンションに関しては、バテンがバテンポケットの中で「上下方向に」S字を描かないギリギリのところを狙います。特にバテンポケットが幅広いリバティーやセバーン、ロフトセイルなどの場合は、幅のあるバテンポケットの中でバテンに「遊び」があるため、適正テンションを見極めにくく、テンション過多になりやすいので注意。もしわかりにくければ、セッティング状態から(セイルを寝かせた状態で)バテンエンドを持ち上げて、セイルの裏側からチェックしてみましょう。するとバテンポケットが「ぷっくりと」膨らんで見えるでしょう。その膨らみが「コブ」のように不自然に膨らんでいるとしたらテンション過多の証拠です。

バテンテンションはどうしても強めにしたくなるところですが、強すぎるバテンテンションは走りに何等プラスをもたらしません。それどころかスリーブ近辺のパネルに過剰なテンションをかけてしまうため、セイルの前縁がバテンポケットに添って切れるなどのマイナス要素となるので十分に注意すべきです。

また、ノーカムセイルは別名RAFセイル(ローテイト・アシンメトリカル・フォイル・セイル)と呼ばれるように、風を受けて初めてフォイルが形成されます。すなわち風を受けることでセイルが膨らんで、そうして初めて適正なドラフトが作られるということ。にもかかわらずカムセイルのように風を受けない状態でまでフォイルを作り出そうとするとバテンテンションを見失います。ノーカムセイルのバテンテンションは、セッティング時で見極めるのではなく、「風を受けた時にどうなるか」で見極める必要があるのです。

ただし、意図的にパワフルさを生み出すためのバテンテンションもあります。基本的にバテンテンションは、一番下のバテンほど強め、上にいくほど弱め、一番上だけ少し強め。これは、セイルを適切にツイストさせ、リーチを開かせて風の流れを整えることで走りの安定とスピードを生み出すための基本原則ですが、これを逆手に取り、セイル上部のバテンテンションを強めることでそこに想定以上のドラフト(深さ)を作りだしてやります。この場合のセイル上部とは、ブームから数えて2本目より上のバテンのこと。そこのドラフトを深くしてやるほどに、(リーチの開きが阻害されることによって)セイルはパワフルに風を捕らえるようになります。ただしそれに反比例して最高速が落ちることは覚悟すべきです。

もしこの方法を試すとしても、くれぐれもバテンテンションは上記した限界値を超えないように。セイル上部のバテンテンションは上記限界値より少し緩めが原則なので、それよりも少し強める=テンションの限界値に近づけるだけ、ということを忘れずに。