ノーカムのバテンテンション

QC.Nさんからの質問

ノーカムセイルのバテンテンションについて。セイルに風を入れた時にパネルにシワができないように、とのことですが、プレーニング中は細かいところまで見れないのでどうしたら良いのでしょうか。また、新品のセイルのバテンテンションは、出荷時に適正な調整がされているのでしょうか。ニールとリバティー(7.0台)のセイルを使っています。

Aバテンテンションの確認は基本的に、セッティングを終えてセイルを寝かせた状態で行います。「セイルに風を入れて」というのは、浜でセイルを立てて風を入れて、パンピングしてみるなどで「最終確認する」という意味で、海上でプレーニングしながら確認するという意味ではありません。

これまでもバテンテンションに関しては幾度か解説しているので、詳しくは過去歴を紐解いて頂くとして、ここではその基本的な考え方について軽くおさらいしておきましょう。

6本バテンのセイルを例に解説します。一番上のバテンから第1バテン、第2バテンと称するとして、一番上のバテンは第1バテンでありトップバテン、一番下のバテンは第6バテンでフットバテンと表現されます。そしてほとんどのセイルにおいてブームに最も近く、もしくはブームと交差してレイアウトし、エンド部がアウトホールに近接するする第5バテンが最も長いバテンとなります。手持ちのセイルが6本バテンでないときやバテンレイアウトが異なる場合は、イメージを膨らませて以下へと読み進めてください。

この例におけるバテンテンションの基本は、最も長い第5バテンと、その次に長い(ひとつ上の)第4バテンが中心になります。言い換えると、バテンテンションは、まず最初に第5バテン、次に第4バテンの順番でチューニングを始めるということ。

第4、第5バテンはセイルのドラフトを決定する所で、そのテンションを誤ると、せっかくのセイルの性能が削り落とされることになる可能性の高い最も重要なバテン。その2本におけるバテンテンションの基本は、質問にあるように「パネルにシワができない」です。バテンテンションが不足しているとバテンポケットの上下に、バテンポケットの縫い目から隣接して(大きくもあり時として小さくもあるかもしれませんが)シワができまます。それらのシワが無くなるまでテンションをかけます。その適性は「ちょうどシワが無くなるところ」。それを超えてテンションをかけ続けるてもシワが無いままになるので、見極めどころを間違えてテンション過多にならないように注意です。

次にフットバテンである第6バテン。ブームから下のセクションは、そのセイルのローエンドパワー、すなわち風を受けた時の加速力であったり、強弱激しいコンディションにおいてスカッと風が抜けた時にバランスを崩してコケたりしないための体を支える最小限のパワーを作り出しています。そのローエンドパワーセクションを形成するのがこのフットバテン。

フットバテン(この例では第6バテン)の基本的なテンションは、その上の第4、第5バテンよりも「少し強く」。見極めとしては第4、第5バテン同様にバテンポケットに隣接するシワが無くなるまで、が指針となりますが、ドラフトの深さは第4、第5よりと比べて深く、テンションをかけるための6角ネジの締め付け加減は「第4、5バテンよりも半周、もしくは一回り強くかけた」と感じるはずです。

ただしセイルによっては、第5からフットバテンにかけて大きなシワが残る場合もあります。それはどんなに強くバテンテンションをかけても「消えることのない」シワで、もしそのような現象が見えた時は、そのシワは無視しましょう。なぜならそれはダウンを引いたことによる、ダウンプーリーに向けてのシワなので、シワが消えるまでバテンテンションをかけると猛烈なテンション過多になるか、壊れるほどテンションをかけてもシワは消えないから。その見極めもまた第4、第5バテンのテンションを元手に「どの程度テンションを追加して感じるか」の感覚的なことが重要になります。

このフットバテンに関しては、バテン本数の少ないフリースタイルやウェイブ系の5.8m2を下回るようなスモールサイズのセイルに関しては上記解説とは異なるチューニングが必要な場合もあります。それは、上記の要領でフットバテンテンションをかけて使った時、アンダーなコンディションにおいて、ジャイブやタック後にフットバテンが返りずらいと思える場合。そうした傾向が感じられる場合は、シワの有る無しに関わらず、軽快にセイルが返せるように、たとえ多少のシワが残ったとしてもテンションを緩めるという追加作業が必要になります。そうしないとアクションにタイムラグが生じてパフォーマンスが落ちるからです。

さてここまで6本のバテンのうちの4から6番目までの解説が終わりました。次のチューニングは第2、第3バテン。

第2、3バテンのテンションは第4、5バテンのテンションよりも少し弱めが基本。なぜならセイルにおけるそのセクションは、オーバーブローをはじめとする風の強弱に反応して「リーチを適度に開かせる」セクションだから。バテンテンションは、「強いほどドラフトが深くなる半面でリーチが閉じ」、「弱めるとドラフトが浅くなる半面でリーチが開きやすく」なるという関係にあります。ゆえにリーチを風の強弱に敏感に反応して、特にオーバーブロー時に開きやすくチューニングしたい第2、3バテンのセクションでは、バテンテンションを第4、5バテンセクションほど強めないことが大切。その弱め加減は、第4、5バテンよりもネジの締め付け加減として1周半から2周緩めという感覚。

そうして緩めたらパネルにシワができるのでは、と懸念するかもしれませんが、そこは大丈夫。なぜならその箇所のバテンは「リーチを開きやすく」というデザイン的な初期設定で、最初から「リーチが開きやすい」バテンが挿入されているから。例えば第3バテンと第4バテンを抜いて比べてみればすぐにわかります。第3バテンは第4バテンよりもドラフトを深く形成しやすい細くて柔らかい部分が短く、ドラフトが深く形成されにくい=リーチが開きやすい太さであることが(ただしこれは初期設定の場合の話なので、中古のセイルで、前の所有者がバテンを入れ替えていたりしたらこの公式は崩れます)。また、テンション緩めだとパネルにシワができるのではないかという懸念も心配ありません。こうした初期設置されたバテンは、少しテンションを弱めて「ちょうどシワが無くなる」状態になるはずです。

最後に一番上のトップバテンは、第2、3バテンよりも少しテンション強く、第4、5バテンくらいのテンションをかけます。トップバテンのあるセイル最上部のセクションはリーチを開かせる「きっかけ」になるセクションなので、第2、3バテン同様に少し弱めが良さそうにも思うところですが、このバテンは多くの場合で先端と後端で太さのない「棒状」であることが多く、棒状のバテンはテンションを強めてもドラフトが形成されることが無く、逆にテンションを強めた方がリーチ側が「だらり」と開きやすくなるので、テンションをかける強さ感覚としては第4、5バテンの力加減と同じくらいが正解と言うことになります。。

ここまで記したことは、バテンテンションが6角などのネジ式でかけることのできるセイル(ほとんどのセイルはそのパターン)での話。唯一ニールの場合は、バックルでテンションをかけるので話が少し異なります。

「テコの原理」でテンションをかけるニールのバックル(名称バットカム)のバテンテンションは、バックルを閉じる途中で最もテンションが強くなり、閉め終わったところではそれよりもテンションが弱くなります。それは力加減の複雑なテコ原理を採用していることによる宿命とも言えますが、そこに難しさがあります。通常はネジを締めるほどテンションが強まって感じるという単純な感覚的法則に則りますが、ニールではバックルを締め終えた後のテンションを想定して、己の経験値から適正テンションを導き出さなければなりません。

そのため(例の場合)ニールの第4、5バテン部は、バックルでは調整不可能な微細なテンションを調整できるように、バックルを締めた後にバックル後部の細い穴から6角ネジで微調整できるように特殊なシステムが搭載されているモデルもあり、そうしたモデルに関してはその調整も必要になります。その難解で複雑なテンションの見極めもまた、前記したバテンごとの「シワ」の判断が指針となることに違いはありません。

最後に「新品のセイルのバテンテンションは、出荷時に適正な調整がされているのか」との質問に関して。残念ながらそれはありません。適正に見える場合もありますが、出荷時のバテンテンションは専門家が1枚1枚検品して適正テンションをかけるなどということは決して無く、製造工場の行員さんが適当にかけたものでしかないので、手元に届いてから自分でチューニングするのが原則です。