上れるフィン

QK.Sさんからの質問

ジャストオーバーでは上れるのですが、アンダーになるとたちまち上れなくなり、ジャイブの練習をしたいのにタックばかりが必要になってしまいます。特に本栖湖では顕著で、インサイドでジャイブしたらアウトではタックしないと元の位置をキープできません。そんな中、上級者に「高性能なフィンを使えば上れるよ」とアドバイスされました。でも薦められたフィンは5万円もする高級品。良いものを使えばすぐに問題解決するのでしょうが、高額なため躊躇しています。ちなみに現在の使用道具はタブーのマンタ69とニールの7.2。フィンはLABの36センチです。

Aマンタ69とは、たぶん2012年以前のモデルである110リッターと思います。そもそもの話として、そのリッター数に今使っている36センチは小さすぎと思います。

プロを含めた大会参加を常とするような上級者は絶えずジャストオーバーで乗ります。その状況で最速を求めるなら36センチは妥当でしょう。しかしそれは彼らが状況に合わせて道具選択するという前提あっての話で、普通の人が限られた道具で、アンダー含めた超ガスティーあり、激しいシフティーありのさまざまな状況に対応するのとは少し異なります。あくまで大会系上級者の話は「ある限定された状況の元で最高」を求めてのことなので、それを外れた状況ではどうなのか?を私含めて「普通のセイラー」は考える必要があります。

本栖湖のような平水面で、しかもガスティーでシフティーなゲレンデを個人的に考えるなら、私ならその板に、カーボンなら最小38センチ(もしくは40センチ)、G10なら最小40センチ(もしくは42センチ)を使うと思います。カーボンとG10でサイズに違いがあるのは、簡単に言えば「カーボンは腰が強く」「G10は腰が弱い」から。カーボンの方が小さくてもグリップ力が強く、G10は腰の弱さを少し大きなものを使うことでカバーしなければならないからです。実際、私は111リッターに7.8の組み合わせでフィンはG10の42センチを使っています。古い板ではありますが、それが最新だった当時、プロは38センチを使ってました。それを知った上で、私は普通なら大きすぎと思えるだろう42センチ。もし本栖湖でお会いしたことがあるとするなら、それでも結構速く走れていると思って頂けるかもしれません。あのフィン、42センチなんですよ。

少し私的なことを。私は板1本、フィン1枚、セイルも1サイズでスラロームを楽しんでいます。そうなればもちろんアンダーもあればオーバーもあり、平水面もあれば波立つ海面もあり、フィギュアエイトを走るだけでなく、沖合3キロを上ることもあればその距離を一気に下ってくることもあります。本栖湖で言うなら、ファンボードゲレンデの前を行ったり来たりするだけでなく、ドラゴンまでを往復し、浩庵キャンプ場の前まで下って戻ってくる。それは大会的スラロームの想定を大きく超えた範囲でワンセットを楽しむということで、その場合はやはり「最速」だけを考えてフィンを選ぶと対処できない場面が出てしまいます。それが顕著に表面化するのが「上り」の場面。最速一辺倒でもし38センチのフィンを選んでいたとしたら、ガスティーで3キロ上るのは苦痛でしか無いからやらないでしょう。本栖湖ならドラゴンまでは足を伸ばしたとしても、浩庵まで下るのは躊躇します。だからすべてを楽しむために、多少最速を犠牲にしても相応なフィンを選びました。それは自分に合った道具選びという言葉にも共通するかもしれません。

話を戻しましょう。質問者が悩むべきフィン選択はメーカーではなく、そのサイズだと思います。予算的に厳しいならなにもカーボンを選ぶ必要もありません。素材によるフィンの性格を知り、低額なフィンでもサイズさえ正しければ質問者の問題は解決するはずです。低額なフィン=低性能と決めつけちゃイケません。適材適所なら十分に速く走れますから。但し、限定状況で最速を求めるなら、やはり高額で最新、最高のフィンを。そのどちらを選ぶかは個人の選択です。

フィンの話からはそれますが、もうひとつ「上り」について解説を加えておきましょう。本栖湖の場合、吹き始めはブローも単発で、下らせれば走るけどワンレグは走り切れないという状況があります。そうした中では、例えばファンボードゲレンデから出た場合、ブローで走らせてアウトでジャイブすると相当に下ってしまっています。なのでその帰り道は、走れるだろうブローもすべて「上る」ためのエネルギーとして使います。ストラップに足など入れず、ただひたすら上って位置回復する。ブローの誘惑に負けて下らせて走らせるなど決して無く。で、運良くインサイドでブローがきたらジャイブ。すなわち不安定な風を「走るために使うか」それとも「上るために使うか」を自分なりに選択して明確に行動するということです。

吹き始めからしばらくたってブローが長めに続くようになったら、単発ブローで走らせアウトでジャイブ、けっこう下っててもインサイドもジャイブ、さらにアウトに行くともっと下った位置にいます。そうした繰り返しの中で、一番強くて長続きしそうで、さらに上るのに好都合な向きのブローが来たら、そのすべてをただひたすら上るために使い切ります。質問者もジャストオーバーでは上れるようなので、そうした自分に好都合な風で一気に位置回復するということです。このように風を使い分けると上りやすく、位置回復しやすいのでタックしなければならない場面を最小限にできるということも知っておくと役立つでしょう。