アジャスタブルの必要性

QAさんからの質問

スラロームが上手な人たちはみなさんアウトのカニンガムであったり、ハーネスラインであったり、アジャスタブルが可能なものを使っている人が多いですが、それは必需なものなのでしょうか。

Aセイルにおけるアジャスタブルシステムには、ダウン、アウト、ハーネスラインがあります。そのうちダウンのアジャスタブルシステム(カニンガムシステム)はオリンピック艇種であるRS-Xや学連艇種であるテクノなどワンデザインに限られるので一般的とは言えませんが、アウトとハーネスラインに関しては、スラローム上級者は当たり前に使っています。

アウトテンションは、オーバーではバックハンドパワー(後ろ手にかかるパワー)を軽減して引き込みやすくするために引き、アンダーでは増えたバックハンドパワーを引き込むことでトルク(初速エネルギーと風の途切れ目でのスピード持続エネルギー)を得るために緩めます。これは、ジャストな風で気持ちよく乗っている時と比べると、2センチ引き、2センチ緩めるほどの違いがあります。たかが知れてると思ってはいけません。そのプラスマイナス2センチの違いは、セイルが引き込めず板が舞い上がって抑え切れないと苦慮していたオーバーをジャストな風で乗っているかのごとく楽々と対処させてくれたり、走り出せない風で難無く走り出せるほどに(けっして誇張ではなく)してくれもするのです。

ハーネスラインは、セイルを強く引き込む上りでは短めに、後ろ膝が曲がって前膝が伸びるような深く風下へと下る時は体とセイルの距離を離すために少し長めにします。また、ジャストセイルの長さを最短とすると、アンダーでは体をハイクアウト(風上側に体を大きく倒すこと)させて上半身を板から遠ざけることで、板に上半身の「重さ」が乗るのを防ぐことで板の浮き上がりを促進するために少し長めに、またオーバーでは「根こそぎ吹き飛ばされないように」重心をいつもより低めに踏ん張るために少し長めにします。すなわち、アンダーとオーバーは少し長め、ジャストでいつもの短さ、ということです。さらに、水着でできることで腕に圧迫感が無く、また筋肉も十分に活動できる夏場は体が大きく使えるという理由で少し長めに、逆に厚いウェットで圧迫され、筋肉が縮こまりがちな冬場は少し短めにすることで、体に連動した長さへと調節もします。これらにおけるラインの長さは、人によって大きく異なりますが、おおよそ5センチほどはあるでしょう。

これらの操作はすべて「楽に乗る」ためのものです。走る向きに合わせて、風の強さに合わせて、身に付けるものの圧迫感に合わせたり、さらにはその日の体調に合わせて調節することで、調節しないよりも楽に乗れるということ。そして「楽に乗る=速い」ということを理解すべきです。

アウトやハーネスラインのアジャスタブルを色々と試していると、最初はわからなくてもすぐにセイルのチューニングに関する知識が増えてきます。今の高性能なセイルは適当なチューニングでもそれなりの性能を発揮してくれますが、それでもセイルが硬質な金属ではなく軟質な布やフィルムで作られている限りは、コンディションなどさまざまな要因によってチューニングがわずかながらも変わるだろうことは想像に容易いでしょう。その隙間を埋めるのが時々のチューニングであり、それをいちいち岸に戻ってやらなくても海上で簡単に操作し、試すことができるのがアウトカニンガムでありアジャスタブルハーネルラインなのです。

もしそれらを必要ではないという人がいるとしたら、その人はそれらを試したことがないがゆえにチューニングへの理解度が浅いのだろうと想像できます。「わからない」からという理由で必要無いと言う人もいるかもしれません。それら意見は無視して、もし質問者が少しでもこれらに興味があるなら、「上達してから」と悠長なことを言わずに今すぐ試してみることを強くお勧めします。前記したように、最初はまったくわからなくても、試してみるうちに「これだけ引いたらこうなった」などと、いろいろなことに気付くはず。それこそがあなたのセイルに関する知識向上に他ならないからです。

ちなみにそうしてセイルへの知識が深まると、ウェイブセイルでさえアウトカニンガムが欲しくなります(そう言えばビヨン・ダンカベックはウェイブでもアウトカニンガムを使っていた)。実際のところ、ウェイブセイルはレース系セイル(カムの有無に限らず走り系セイル全般=レースセイルからフリーライドセイルまで)よりもアウトテンションが強めであるため、カニンガムでアウトテンションを操作し切れないものも多くありますが、それでもカニンガムによって蓄積された知識を生かすべく、個人的には、風の強弱が激しいウェイブでは1時間あたり最多で3回くらいはセイルを倒し、水に浸かってアウトを緩めたり引き直したりもします。それはアジャスタブルシステムを使うよりも大いなる手間ではありますが、その手間を惜しまないことで、より楽に上手に乗れことがわかっているから。そして、「しないのはもったいない」ことを知っているからです。