微・中風での加速

QTさんからの質問

メインゲレンデが海外であるため仲間も無く情報が少なくて困っています。FUTURA144とWARP8.4で超フラット海面をかっ飛ばすのが大好きなのですが、体重が96キロということもあり強風は得意なものの、微・中風での走り出しに悩み中。加速時にセイルのどこに一番パワーを受けるべきか、加重はどうすべきかなど、感覚的な質問ですが教えてください。

Aまず、板の浮力とセイルサイズ、さらに体重との組み合わせに対して、風が弱すぎる時は(当たり前ですが)走り出しません。そんなときは諦めるしかありません。しかしあと一歩で走り出せそうな風のときは話が違います。そうした時は、風を「待っていたら」走り出せず、風を「迎え入れたら」走り出せる可能性が高くなります。

風を「待つ」とは、ノンプレーニングのフォームのままブローを待ち、セイルにパワーを感じてから行動すること。これだと、例えばストラップに足を入れるのは風を十分に感じてからになり、でも足を入れるという動作の間にブローが通り過ぎてしまったなどのタイムロスが生じて風のパワーを走り出しに100%還元できないため、走り出せないことが多いです。そうした人は結局のところ十分な強さの風が無いと走り出せない、となってしまいます。

対して風を「迎え入れる」とは、訪れた弱い風のパワーを100%加速に繋げる動作。それは、瞬時に加速できる体勢を整えておいて、且つ、よりセイルに風を「はらむ」ようにしてやること。そうして風の力を100%活用することで、走り出せる可能性が高まります。それでもなお走り出せないとしたなら、それは冒頭記したように、その風ではそもそも走れないのだから諦めましょうということです。

質問者のホームゲレンデの状況がわからないので、ここからは風にそこそこ強弱があってブローを逃さなければ(わずかなブローのパワーを100%加速に変換できれば)どうにか走り出せるかもしれない、という仮想において解説を進めます。走り出せそうなブローが見えて、それを拾って「いざ走り出すぞ」と身構える場面。その仮定に立って風を迎え入れるために大切な要素は2つ。ひとつは風を迎え入れるためのフォーム、もうひとつがそのための板の向き。

風を迎え入れるためのフォームには3つの要素があります。ひとつは前足がストラップに入っていること。アンダーでは通常、前足はストラップよりも相当に前方にあり(棒立ちの状態)、走り出しかけても重心が前にあるために(前のめりにブレーキがかかって)加速しません。プレーニングでは最低限の条件として前足がストラップに入っていることが必要なのですから、その体勢を前もって作っておくということです。このとき後ろ足は、たぶん前足のすぐ後ろでスタンスが狭い状態にあるでしょう。

二つ目が膝を曲げ、さらに腰が「くの字」に曲がるくらい重心を低くすることで、前足をストラップに入れながらも重心をノーズ寄りに保つこと。前足をストラップに入れて棒立ちしていたら重心はテイルに乗ってしまいますが、腰を曲げて重心を低く体勢すれば頭が前膝の上、もしくはそれよりも前に位置でき、ゆえに重心を前にキープできることで、テイルの沈みを最小限に抑えることができます。

三つ目が腕を最大限「伸ばす」動作。これによりセイルを「マストが直立したように」限界まで前に位置できます。前足をストラップに入れることで自分のポジションは後ろ、それに連動してセイルも後ろに「連れて来たら」決定的にテイルが沈みますが、自分のポジションは後ろ、対してセイルは前に置くことでさらなる重心のパランスを取り、テイルが沈むのを防ぐという手法です。

下の写真は(古くて申し訳ありませんが)、それら3要素を重ねた場面。正確には「前足をストラップに」「膝と腰を曲げて重心を低く」「両肘を伸ばしてセイルを前に」した直後の、今まさに走り出しかけた瞬間のカット。3要素を重ねた場面として「こんな感じだ」とイメージしてください。

この「風を迎え入れる」フォームから、実際に風を迎え入れたら、「膝と腰を伸ばし」「腕を曲げながらセイルを引き寄せ」「同時に引き込み」、そうして一気にパワーを得て走り出しへと繋げます。

この写真を見てもわかるように、風を迎え入れるフォームの時、セイルはどうしても開いてしまいます。セイルを閉じたまま「迎え入れ」フォームを作るのはたぶん無理。となれば、写真のようにセイルが開いていても「セイルに風を受け止めることの出来る」向きに板が向いていることが重要になります。

それはおおよそクォーターから、クォーターとアビームの中間くらいの角度の範囲。少なくともアビームやクローズを向いていたらダメなことだけは確定なので、「アンダーの走り出しでは風下を向けて」を意識すべきです。たぶんこれは質問者も含めて多くの人がそうしていると思います。

ちなみに上の写真、なぜ古いか?と言えばそれは過去歴の「スラロームパンピング/2008年3月掲載」から引用したものだから(ぜひそちらも参照を)。すなわち走り出しのためのフォームは、そのままパンピングへとつながるフォームだと言うこと。通常はそこから3回ほどパンピングして走り出します。3回パンプしてダメでも「あと一歩」で走り出せそうならさらに追加で2回パンプ。それでもダメならジタバタせずに諦めます。たぶん5回パンプして走り出せなければ、その後パンプを繰り返しても結局は走り出せない可能性が高く、無駄に体力を消費してしまうだけだからです。

これらを踏まえた上で質問に戻るなら、加速時はセイルのトップからフット、ブームエンドまですべての「セイル面で」パワーを感じること。特にバックハンド(後ろ手)にパワーを感じられるように(なぜなら写真の状態からセイルを引き寄せ、引き込むことで加速するのだから、そのためには後ろ手にパワーが宿る必要があるから)、完プレ状態よりも後ろ側にパワーポイントを意識することも合わせて重要でしょう。

ちなみに後ろ手にパワーポイントを宿らせるにはアウトを緩めにするのが有効。だからこそアンダーではアウト緩め、完プレだとそれより引いて、オーバーではさらにアウトを引くというチューニングが常識になっています。それを随時海上で行うために走りのプロが例外無く「アウトカニンガム」を活用している理由もここにあります。アウトカニンガムによってアウトテンションを適材適所変更することで、走りのプロはアンダーで人より加速し、オーバーを人より楽に乗りこなしているのです。