オーバーブロージャイブ

QKさんからの質問

本栖湖ファンボードゲレンデのオーバーブローでのジャイブ。セイルに風を受けてジャイブするとランニングで突っ走り、セイル返しで失速こそしないもののターンが大回りになってしまいます。ターン中、失速するどころか加速する感じさえして、とにかくすごいスピードで大回り。その最中、インレイルを強く踏んで板を傾けているつもりなのですが、板の反発が強すぎてレイルの傾きが戻されて自分なりに描く理想のターンができません。この場合、フィンが大きすぎるのか、板がオーバーフローなのか、それともレイルの踏み込みが甘いなどの技術的な問題なのか、その原因がよくわかりません。ちなみに板はマンタ110リッター、セイルはV8の7.2、フィンはG10の42センチです。

A道具的に何か問題があるとは思えません。しいて言うならば、110リッターに42センチのフィンは大き過ぎると指摘する人がいるかもしれませんが、それがG10だということを考えればジャイブに解消不可能なほどの影響を及ぼすとまでは思えません。

ジャイブで大切なのは、「自分が気持ち良くジャイブできるエネルギーをセイルに宿す=自分が気持ち良くジャイブできるスピードでジャイブに入る」です。例えばアンダーならば、きっとジャイブが途中で停まってしまうだろうからもっとエネルギーが欲しいとなるだろうし、オーバーなら、そのオーバーパワーでは(そのオーバースピードではターンがコントロールできないだろうから)もっとエネルギーを弱くしたい、となります。質問者の場合は後者。

ジャイブで大切なのが、ジャイブに至る前=レイルを踏み込む前、のベアであることは雑誌や当HPで幾度も過去記してきました。私だけでなく多くのエキスパートたちが同じように唱えているのも記憶していることでしょう。この場合のベアとは、例えば本栖湖であるなら、普通アビームか、それよりも上って走っていることが多く、そこからジャイブに入る準備段階として、風下45度のクォーターくらいまではレイルを入れずにベアする、ということ。ジャイブでレイルを入れるのはその先のことだということをまずは再認識しておきましょう。ジャイブでは、このベアこそが最も重要。言い換えるならジャイブの成否はベアの最中に「何を考え、何をするか」で決定されると言えます。

普通、ベアというと、アビームよりも加速する、と思うでしょう。それは正解です。特にアンダーでは、ベアすることで加速し、アビームでは得られなかったスピードを積み重ね、そのスピードを頼りにジャイブを完成させる。しかしオーバーではその逆。オーバーでは、ベアしながらセイルに受けるオーバーパワーを垂れ流して意図的にエネルギーロスさせ、その後のジャイブがしやすいように適度なパワーとスピードへと調節(スローダウン)します。ベアとはこうしたエネルギー=スピード調節のための(時間にしてごく短いが非常に大切な)エリアなのです。

上級者はアンダーでもオーバーでも、いつもそれなりに同じようにジャイブを完成させます。もちろんまったく同じように出来るワケではありませんが、アンダーだから止まるとか、オーバーで突っ走ってどうにもならなくなるということはありません。そうしていつも「それなりに」ジャイブを完結させるためのキーパーソンこそが「ベア」です。

下の写真は今年2018年の8月18日、ファンボードゲレンデの(インサイドですが)私のジャイブシーン。上はアンダー、下はオーバー(と言っても質問者に合致するほどの超オーバーではないけど)の、ベアを終えて今まさにレイルを入れ始めた(ジャイブに入り始めた)ところ。同じアングルで、同じノーズの向きであることを踏まえた上で、その違いは明らかでしょう。

アンダーでのセイルポジション。開いたセイルに風を受け続けることで、たぶんここから先、失速するだろう場面で少しでも加速を得たいとしているセイルトリム。

オーバーでのセイルポジション。セイルを強く引き込むことで風を受けないように、それによって加速を防いでオーバーパワーに陥らないようにしている。それでもなお上の写真よりもスピードが出ていることが、板から上がる飛沫の違いでわかる。ちなみに上写真との風速の違いは、画面奥に見える湖面の白波の数の違いから推測できるだろう。

上のアンダーではセイルは開き、その開いたセイルに風を受けてエネルギーを増幅させて加速しようとしています。対して(下の)オーバーのそれはセイルを引き込んでいます。このとき風は、引き込まれた(おおよそ)ブームエンドからマストにかけて流れていて、すなわち「吹いているオーバーな風を」受けずに、セイルに進行風だけを受けることで「オーバーパワー=オーバーエネルギーを浪費させて軽減する」という作業をしています。それすなわち、オーバースピードを自分がどうにかできるスピードまで落とす、という作業をしているということです。

こうしてスピードを自分なりに、自分に都合良く操作できたなら、そのあとに続くジャイブは楽になります。いつも自分に都合の良いパワーとスピードでジャイブするのだから成功率も高まるし、苦労も少ないだろうと想像できることでしょう。

質問者の悩みを解消するには、まずはジャイブにおける前段階であるベアに着目すること。そのベアの最中に何をすべきか、どうすればその後に続くジャイブがより良くできるか、を考察すること。そして技術的には、ベアの最中にエネルギー=スピードを増幅させる方法と、エネルギー=スピードを軽減させる方法を使い分けられるようになること。特にオーバーにおいては後者が大切だということ、になるでしょう。

もう一度写真を見て、上のアンダーではターン中、セイルに風を受けて少しでも失速を防止、できれば加速を得たい。写真はそのためのセイルトリムポジション。対する下のオーバーではセイルを強く引き込んで意図的に風を受けないようにする。そうすることでオーバーパワーを軽減し、同時にオーバースピードを適度に抑える。そして質問者が練習したいのは、下の写真ということです。

しかし、下の写真のようにセイルを引き込んでエネルギーロスを計りたくても、それでもなお無理なオーバーセイルもあります。すなわちセイルを引き込もうにもそれが不可能なほどのオーバーセイル。その場合は上の写真から後ろの手を離し、セイルをシバーさせて完全にセイルから風を逃がし、それまでのスピードだけを頼りに板を回します。これはセイリングさえ不可能なほどの超オーバーでの、回避的ジャイブ方法です。

ちなみに風が弱いのにむやみやたらに下の写真のようにセイルを引き込みたがる人がいますが、間違い無くターン後半で著しく失速します。それは「わかっている人」から見ると無惨な光景なのでヤメておきましょう。