コース取りの基本

QH.Oさんからの質問

コース引きの基本を教えてください。また、逆艇団が伸びた時に、それに合わせるコツも教えてください。

A内容から察するに、たぶん質問者は学生もしくは国体などのアップウインドに関する質問を要望しているのだと思います。

アップウインド(コースレーシング)のタクティクスは、言わば数学のようなもので、基本公式はわずかしかなく、しかしその数少ない公式をどう組み合わせてケースバイケースに対応して答えを導き出すか、が勝負になります。経験値がモノを言うというのも、その組み合わせ方をどれだけ沢山知っているか(どれだけ経験して身に染みているか)に由来して言われる言葉です。

応用編まで記すにはあまりにもスペースが少ないため、ここでは基本中の基本について解説しておきましょう。とは言え、多くの人はこの基本を見失って順位を落とします。基本を見失わずにいつも実践できる人は、たぶんいつも相当上位にいるはずです。

まずは海上で実際に設定されるレースコース(特に上下のマーク)。運営者は通常、上マークを風軸に正しく設定すべく努力します。風軸とは、風が吹いてくる方角から風が吹いて行ってしまう方角に真っすぐに引いた線のこと(イラスト1)。

ここで重要なのは、運営者は正しく風軸に合わせて上下のマークを設定しようとしますが、必ずしもそうならない(場合の方が多い)ということです。その理由は、風は常に不安定に向きを変化させる(シフトする)からです。

上記のことは大きく2つに分けることができます(本来はもっと複雑ですが)。ひとつは風軸に添った風の他に、右にシフトするブローがある場合(イラスト2)。

もうひとつは風軸と他に左にシフトするブローがある場合(イラスト3)です。

右にシフトするブローが入るイラスト2の場合、右からのブローをいち早く捕まえ、それを自分に有利に活用するには、風軸よりも右側の海面をより多く使う、すなわち「右海面有利」になります。左にシフトするブローが入るイラスト3はその逆で「左海面有利」です。これは必ずしも風軸よりも右海面、左海面にいなければいけない、ということではなく、より「相手よりも」そちら側の海面を「多く」使うことを「意識する」ということです。

右海面有利の場合は、ライバルよりも右側にいる方が有利に働きます。右にシフトしたブローをいち早く捕まえられるから先に加速、もしくは角度を稼げるからです。左海面有利ではその逆。そうした右もしくは左にシフトするブローをより効率的に活用するには、「下受け」「上受け」を上手に使わなければなりません(下受け/上受けに関してはバックナンバーを参照)。

右海面有利(イラスト2)で考えてみましょう。以下イラスト4〜6では、自艇はAで示した白い艇、相手はグレー色の艇です。ライバルよりも(それは個人である場合もあるし、数10艇の船団である場合もあります)右にいるためには、イラスト4のように、左から来る艇(ポートで走る艇)に対して下受け(風下で先行した位置でタックすること)する必要があります。

もしイラスト5のように上受け(風上側に出て先行された位置でタックすること)してしまうと相手よりも左側に出てしまうのがわかるでしょうか。

イラスト5は一見、自分の方が風上側にいるような錯覚に陥りますが、右から来るブローに対しては風下(遠い側)になっていることを強く認識すべきです。

逆に、イラスト6のように右から来る艇(スタボー艇)に対しては上受けします。そうして相手よりも右側へと駒を進めることで、右からのブローが有効活用できる可能性を手にできます。

とは言えそれだけで上位入賞ができるわけでもありません。例えばイラスト4の下受け。そのタックのタイミングが、風が風軸に振れ戻ったときとタイミングを合わせることができれば善しですが、右に風がシフトしている最中にタックしたら、せっかくの下受けも走りの角度を失ってしまうでしょう(意味がわかりますか?)。すなわち、「相手との位置関係」「風の変化」の双方に気を配り、双方を上手にリンクさせてタックという行動を起こすことが順位を大きく左右するということです。

コースレースの上りにおいてタックというのは非常に深い意味を持ちます。ただ漠然とタックしていたり、ただ相手に合わせてタックしているようなら、その人の順位は頭打ち。タックには「そこでタックしなければならない」意味が必ずあり、それは自分の組み立てたコース取りを実現するための唯一の手段だということを理解した上で、練習も含めて「意味のあるタック」をすることが重要です。

さらに、タックは先手必勝だとういうことも覚えておくべきでしょう。先手必勝とは「先に動く」ということ。「相手が動いたから自分も動く(タックする)」では遅すぎで、「相手が動きそうだと思ったら、それを察知し、相手よりも先に動く」ことです。特に下受けに関しては、この意識が欠落していると積極的な動きが実現できず、後手後手に回ることが常です。

いつも上位入賞する人は、「相手との位置関係を把握し」「風の変化を読み」「次の展開を予想し」「意味のあるタックを」「相手よりも先に」します。特に下受けの場合は、多くの人の場合それは数10メートルの距離にいる目先の相手に対してだけですが、上級者は数100メートル離れた船団に対しても(極端に言えば、自分が右海面の端の方にいて、左海面の端の方を走る相手に対してでさえ)積極的に仕掛けます。

これらはとても難しいことですが、常日頃の練習から心がけて「頭を使う」練習を繰り返していれば必ず実現できるタクティクスです。それともうひとつ、「レース海面全体を俯瞰して把握する」ことも必須。それは上空からレース海面全体を見渡しているかのように理解するという能力のことで、そこにはレースコース全体のレイアウトだけでなく、そのどこに自分がいるか、また相手がどこにいるか、さらには風のシフトはどうか、などが刻み込まれます。これもまた常日頃の練習から心がけることで必ず身に付けることのできる能力です。

尚、今回はコース取りの質問だったので触れませんが、正しいコース取りをするためのスタートの構築(考え方)というのもあります。それに関してはあらためて質問があったときにお答えしたいと思います。