上マークアプローチライン

QH.Sさんからの質問

アップウインド(FW)で、上マークのアプローチラインに乗るためにタックする場合、どこでタックすれば良いのかわからずにオーバーランしたり足りなかったりします。

A上マークを半時計回りで回航するコースを例に解説してみましょう。

イラスト1を見てください。半時計回りで上マーク(赤丸)を回航するためには、風下(画面下)からポートで上ってきて、タックして、スタボーで上マークを目指さなければなりません。このときのスタボーのクローズ、すなわち「そのまま真っ直ぐ走れば上マークが回れる」状況のクローズラインをアプローチラインと呼びます。イラスト1の中でそれは、Aの位置でタックしたラインです。しかし実際には、このアプローチラインを読み間違えて、Cでタックしてしまって上マークを回れずにまたタックが必要になったり、アプローチラインを行きすぎたBでタックして、正確なアプローチラインとの差(a)を余計に走ってロスしたり(これをオーバーランという)します。

そうしたショートランやオーバーランをせずに、正確なアプローチラインに乗れるAポイントを目印の無い海上で見極めるには、選手それぞれが自分なりの目安を持つことが大切です。たとえば現ウインドサーフィンジャパン社長である三木氏は現役時代(彼は国際大会にも頻繁に出場する国内を代表するトップレーサーでした)、振り返ってめがねの縁に上マークが隠れた瞬間にタックするという目安を持っていました。また、めがねをかけていない私には、後ろから振り返ってちょうどマークが見えた瞬間にタックするとジャストという目安があります。もちろんクローズ角度そのものに個人差もあるので、アプローチラインの見極めは「みんなこうする」という決まりはなく、練習を積み重ねる中で自分なりに身につけることが必要。さらには風速によってクローズ角度が異なってくるので、アンダーではここ、オーバーのときはここ、という具合にコンディション別にマスターする必要もあるでしょう。すなわちアプローチラインの見極めとは、練習の中から培わなければならない重要なテクニックのひとつなのです。

アプローチラインについて忘れてはならない知識を補足しておきましょう。アプローチラインに乗る最後のタックは、上マークに近ければ近いほど正確に判断でき、遠いほど不鮮明になります。もし上マークのすぐ横を横切ってアプローチラインにアプローチしたとしたら、どこで最後のタックをしたら正確に上マークが回れるか誰でもわかるはず。だからアプローチラインを見極める自信がないとしたら、下のイラスト2の、OではなくPのように極力上マークに近く上ればリスクを回避できるわけです。

さらに上級者であっても、上マークから離れれば離れるほどアプローチラインが不鮮明になり、どうしても「上マークを回りきれない」失敗を回避するための保険としてのオーバーランを余儀なくされます。これをイラストにすると上のようになります(青点線で示した正確なアプローチラインに対して、実際のアプローチラインは黒線となる)。このオーバーラン現象を知っていると、先行艇を追いかけるときに有利になる場合があります。もし先行艇がイラストのOからアプローチラインに乗るとして、対する自分がPからアプローチラインに乗ったとしたら、相手がオーバーランした距離分だけ近づける可能性があるということです。言うまでもなくこれは状況次第ですが、そうしたタクティクスがあることも覚えておいて損はないでしょう。