メーカー別使用モノフィルムの特徴

QD.Yさんからの質問

ノースのS-TYPEをメインに使っていて、サーマル用にセバーンのOVERDRIVEを購入しました。色やデザインは非常に気に入り、またS-TYPEの7.3よりもOVERDRIVEの8.6の方が軽いことに驚きも覚えたのですがモノフィルムの耐久性に不安があります。4年以上使い続けているS-TYPEよりも、2年使用のOVERDRIVEの方がフィルムが疲れた印象があるのです。メーカーごとに、またセイルごとに使用フィルムには事情があるのでしょうが、今後セイルの購入を考える際の参考にしたいので、メーカーごとの使用フィルムの違いなどを教えてください。

Aセイル素材にはさまざまありますが、ここではX-PLY(格子状の繊維が入った素材)ではなく、質問の核心であるだろうモノフィルム(プリントされたモノフィルムや色のついたカラーフィルムも含む)に関して説明しましょう。

現在セイルに使われるモノフィルムは、その厚さを「ミクロン」で表示して188、150、125、100の4種類が主に使われています。数字が大きいほど厚くて耐久性に優れ、しかし重く、数字が小さいほど薄くて耐久性に劣り、しかし軽い、という関係があります。また厚いフィルムは形崩れしにくいため強風に適し、薄いものは「しなかや」であるためパンピングなどによる風を捕らえる能力に優れて弱風や加速力を高めます。

その説明に適しているのが学生が使うテクノのセイル。テクノはメインパネル(顔の前、ブームと接する最も大きなエリアのパネル)に188、それ以外(メインより上のパネル)は125で作られています。もしそのテクノセイルのメインパネルを125に変更したとしたら、それは微風に優れる性能を持つことになります。パンピングで加速しやすく、微風でスピードを得やすくなるということ。そのためインターナショナルルールとして(学連ルールも同様のはず)、メインパネルを125に変えることは特にこれを指して禁止しています。これは直接テクノ・インターナショナルの協会長に確認したことなので間違いありません。同じように125で作られた上部のパネルを、例えば耐久性に優れるからと188のフィルムに変更したとしたら、それは強風に特化したセイルになるため、同じようにルール違反で失格になります。

話を戻しましょう。4種のうち150はほぼニールしか使っていません。ニールのコンバットなどのメインパネルがそれです。

最も厚い188は、主にウェイブセイルのメインパネルや、レースセイルやフリーライドセイルの、耐久性を求めたいフットパネルに使われます。

125は薄いと感じるモノフィルムの定番の厚さ。フリーライドセイルやフリースタイルセイルなど、おおよそほとんどのセイルのほとんどのパネルがこの厚さのフィルムで作られています。

最も薄い100はトップレースセイルで使われます。トップレースセイルはバテン数が多く、そのためひとつのパネル面積が小さく(横は長いけど高さが短い)、上下を硬質なバテンで支えられるため薄いモノフィルムでも耐久性が保てるから。数多いバテンやカムの重量を最も薄いフィルムで相殺して総重量を軽減していると言えるでしょう。

このように、そのセイルに「与えたい」性能を熟慮して使用されるフィルムの厚さは決められています。

質問に戻りましょう。S-TYPEのメインパネルは188のモノフィルム、OVERDRIVEのメインパネルは125。当然188の方が厚く、硬く、耐久性に優れ、でも重く、なので、質問の疑問内容がそのまま合致することがわかると思います。

ただし注意。同じメーカーの同じ名前のセイルでも年式によって使用フィルムが異なることもあります。なので上記した対象セイルの使用フィルムが、過去のすべてのモデルについて、もしくは今後も継続して同じであるとは言い切れません。また、使用フィルムの厚さの判断は(バテンが挿入されてパネルにテンションがかかった状態では)、見てまったくわからず、触れてもわからないことと思います。

ここまで説明したように、それぞれのセイルは、それぞれ求める性能と耐久性を天秤にかけて最適と思えるフィルムを使って作られています。そうした中では、単に耐久性だけを抽出してセイル選択をするのが正しいかどうかは疑問の残るところ。それぞれのメーカーは、それぞれのセイルごとに、それを使うだろうユーザーに最適と確信したフィルムを使って作っていることは間違い無い事実なのですから、結局のところ、自分なりのセイル選択をすることが重要ということになるでしょう。

ちなみに、薄いフィルムもセッティング時にシワにならないように気をつけてやれば耐久年数を長く保てます。また厚くて丈夫なモノフィルムであっても、保管時に「丸め方」を緩やかに(太く丸めてしまうと)ヒビ割れが生じやすく耐久年数が短くなります。特に後者。セイルを太く丸めた方がフィルムが痛まないと勘違いしている人は思いのほか多く、しかし実際は、そのセイルの購入時(新品状態のとき)細めにしっかり巻かれていたことからもわかるように、緩く丸めるとフィルムとフィルムの間に隙間ができて、その隙間の中で、立てて保管する時も寝かせて保管する時も、重力に負けてフィルムが「つぶれ」ます。使い続けたセイルによく「ツメ先で傷つけたような」湾曲した小さなヒビ割れが無数に見られますが、それはおおよそこの原因によるもの。トップパネルがシワになろうとも(一番大きなメインパネルが裂けるよりマシ、パネル交換などの修理が必要になるとしても、メインパネルよりも小さなトップパネルの修理の方が安価で済む)、しっかり細く巻くことがフィルムの耐久年数を長引かせる適切な方法だと覚えておくと役立つでしょう。

これは特に、バテンレイアウト上、細く巻きにくいテクノセイルと、クリュー(アウトホール付近)の生地が厚く、またスリーブのフット部にある厚手のパッドが大きなノースセイル、さらには最後に止めるゴムとその留め具の位置関係で「巻きが緩みやすい」ナッシュセイル、またマウイセイルとロフトセイルのレースセイル、それ以外にも巻きにくくどうしても太巻きになりやすいすべてのセイルにおける注意事項。さらに細かいことを付け加えるならば、セイルバックが太く、緩く巻いても入れやすいものも(その視点からするとガストラのレースセイルも含まれる)、巻き方の間違えによる耐用年数低下を助長しやすい傾向があるので注意です。