マストのカーボン含有率

QK.Aさんからの質問

マストのカーボン含有率について。ウェイブセイルの買替えの検討と平行し、すでに10年選手のマストの買替えも検討中。EZZYを使っているのですが、従来の91%カーボンにするか、新登場で割安の60%にするかで悩んでいます。個人的には重さの違いはあってもスラロームのように含有率による性能差はさほど無いと思うのですが、サンデーセイラーレベルでの体感的違いはありますか。50歳を過ぎているので突然のブローにも飛ばされにくいソフトな使用感が好みで(60%の方が良い?)、また体重85キロと大柄なのでアンダーの性能も気になるところです。

Aこれまで幾つかの質問で回答してきたことですが、今一度マストについての基本情報をまとめておきましょう。

カーボン含有率が高い方が硬い?

カーボン含有率の違いによるマストの硬さの違いは本来無いはずなのですが、実際にはカーボン含有率が高い方が硬く感じます。それは高い方がレスポンスに優れるから。すなわち、曲げたところから元に戻ろうとする力(復元力)が強いために、特にセッティング時にダウンがキツいなど硬く感じます。

長い方が硬い?

マストの硬さはIMCSという数値で表されます。これは長さを460センチとした場合の曲がり度合いの数値。例えば400のマストならば、それを460センチとした場合の曲がり度数を示します。だとするなら、例えば共にカーボン含有率が100%で、400センチでIMCS25のマストと460センチでIMCS25のマストがあった場合、両者は同じ硬さ(=曲がり具合)のはずなのですが、実際には長いものほど硬く感じます。そして含有率の高いものがそうであったように、長い方がダウンがキツかったりもします。

RDMよりSDMの方が硬い?

スキニーとも呼ばれる細いRDMマストと、昔ながらの太いSDMマスト、共に同じ長さ同じカーボン含有率、さらには同じIMCS数値であっても太いSDMマストの方が硬いです。理由はわかりませんが、例外無くそうです。ただし質問はウェイブセイルに関してなので、今どきウェイブセイルにSDMを使う人もいないだろうから、質問者には関係の無い話とも思えますが。

カーボン含有率が高いと折れやすい?

もしそう思っている人がいるとしたらあまりに考え方が古すぎます。飛行機にまでカーボンが使われる今の時代、含有率が高いと折れやすいと錯覚するのはあまりに滑稽。それはもう20年以上も前の話です。実際、私は100%のマストをウェイブでもう6年使い続けています。逗子の沖合のサーフポイントである大崎で、マストトップが岩に挟まり道具が逆立ち、浅瀬でセイルの半分以上と、そのはるか頭上に板がブラブラするような不可思議な状況でもまだマストは健在。カブネで大波にゲロ巻かれしてジョイントが折れたときもマストは耐えきりました。もちろん新品のマストでもあっさりと折れてしまう時もあります。かと思えば私のように折れて当然の状況でも踏ん張ってくれる時もあります。結局マストはカーボン含有率などまったく関係なく「折れる時は折れる」ということです。

同じカーボン含有率で同じ長さでもメーカーごとの違いがある?

12年以上昔、ハワイ出身のマスト(例えばシマーやイジー等)は、マストを上下2分割したとき、相対的に「下が柔らかく上が硬い」曲がり方でした。対してヨーロッパ出身のマスト(ニールやノース等)は、それと比べると「下が硬く上が柔らかい」でした。両者には大きなベンドカーブ(曲がり具合)の違いがあり、そのため互換性がありませんでした。しかし今のベンドカーブは、簡単に言うなら当時の両者の中間的曲がり具合(イーブンベンド)でおおよそ統一されています。なので今は、どのメーカーのセイルにどのメーカーのマストを組み合わせても大きな不都合無く使えます。これはウェイブのみならず、レース系セイルも含めてすべてのセイルに言えます。

カーボン含有率が同じなのになぜ大きな価格差があるのか。

カーボン100%とは単純に「カーボンしか材料として使ってませんよ」という意味。そこで例えばカーボン5枚重ねのマストと、たった1枚しか使っていないマストがあったと仮定した場合、共にカーボン100%となります。しかし当然ながら、1枚しか使っていないものよりも5枚重ねの方が値段は高くなります。ならばなぜ高額になるのを承知で5枚も重ねるのか。それはそれが必要だからです。すなわち高額なマストは必要なことを必要なだけ「やっている」と考えることができ、逆にあまりに低額なマストは「言葉の抜け道を使って高性能を装っている」と考えられます。とは言え間違えてならないのは、あまりにかけ離れた価格差で無い限り、それは企業努力によって価格が抑えられていることも多分にある、ということ。そのあたりの見極めは、セイルメーカーの発信するマストなら多少価格差があったとしても安心できるはず、というところが判断材料になるでしょう。なぜならズルをしたらセイルも売れなくなってしまうから、それは商売上あまりに大きすぎるリスクだからです。

ソフトと柔らかい、は違う?

よく「ソフトなセイル」と表現されるように、今のセイルは「ツイスト」して、風が弱い時は最大限に風を受けてパワーを生み、オーバーブローを受けた時はツイストして余剰パワーを逃がして乗り手をサポートします。すなわち「ソフト」とは「しなやか」という意味。風が弱ければしっかりと風を捕らえ、強いブローには「しなやか」にセイルが反応して余計な力を逃がし、再び風が弱まれば速やかに復元して風を捕らえ直す。その性能はセイルが担いますが、そうしたセイル性能を発動させるのは「復元力に優れた」マストとなります。対して「柔らかい」とは、風を受けたらセイルがグニャっと曲がり、ブローが通り過ぎてもいつまでたっても復元しない状態を指します。それは言い換えるなら「形崩れ」であり、「腰の弱い」状態。このように、「ソフト」と「柔らかい」を言葉上だけを捕らえて混同すると、とんでもない間違いに陥ることを確認しておきましょう。

ただし、何でもかんでも含有率が高ければ良いのか、と言えばそうではありません。セイルには想定マストというものがあり、例えば含有率75%を想定して作られたフリーライドセイルに100%を使うと、それは「硬すぎて」しなやかさが阻害され、本来逃がされるべきオーバー時の余剰パワーも受け止めてしまったり、セッティングでダウンがキツすぎて引きたいところまで引けないなど多くの問題を抱え込むことになというのも合わせて覚えておきましょう。

さて、一息つく間に私事を。私はウェイブで5.4、4.7、4.0の3枚のセイルを使っています。マストはもちろんすべてカーボン含有率100%。なぜ「もちろん100%」か、と言えば、ウェイブセイルはアクション系の頂点に君臨する高性能セイルだから。性能的両極を示すレーシングセイルが100%を必要とするように、究極の性能を持つウェイブセイルもまた最高のマストが必要と考えるからです。という理由で100%のRDMを使う私のそれぞれのサイズのセイル達は、5.4は400に28センチのエクステンション、4.7は370に28センチのエクステンション、4.0は370に0センチのエクステンションで対応しています。その中の4.0は本来は340のマストに30センチのエクステンションなのですが、なかなかどうして3枚に3本のマストを保有するのは難しく、カタログ上の許容範囲である370マストでやりくりしています。その4.0と370の組み合わせですが、理想である340よりも長いためダウンが少しキツく、指定数値まで引いてしまうとリーチがダラダラの引き過ぎになってしまいます(理由は「マストが長い=硬い」から)。なので指定数値より1センチほどダウンを弱めにセット。それでもセッティングは「硬めに」仕上がり、当然ツイストも硬めで、本来なら「このブローはセイル性能でやり過ごしてくれるだろう」状況でも風を受け止めてしまうため、簡単に言うならオーバーに厄介。それをカバーするための措置が、指定よりも強めにアウトを引くというチューニング。アウトを引くことでセイルカーブを浅くし、ブローを溜めずにリリースを早めることで対処しようとしているわけです。

話を質問に戻しましょう。ウェイブセイルはレースセイルと両翼を担う高性能なセイル。ゆえにできれば高性能なマストを選ぶべきです。それは質問者の場合なら91%のカーボン含有率のマストです。

すでに説明したようにソフトと柔らかいは異なるので、質問者の求めるソフトな性能を手にするには60%では役不足に感じます。なぜなら60%だと、ソフトではなく柔らかくなってしまうかもしれないから。その懸念を高めるもうひとつの理由が、質問者の85キロという体格。その大柄な体格を考えた場合、特にアンダーでは「しっかりと弱いブローを受け止めてパワーに変換できる」マストが必要と思われます。それは間違い無くカーボン含有率の高い方です。

こうしてさまざまな要素を紐解いて考えるなら、質問者が選ぶべきマストはカーボン含有率91%のマストと思います。もちろんそこには価格差という大問題が立ちふさがりますが、出来るなら購入すべきは迷わず「そっち」でしょう。