オンショアでサイドショアセイル

QS.Nさんからの質問

オンショアコンディションで、サイドショアセイルと称されるセイルを使ったところ、サイズが大きいにもかかわらずオンショア用の小さなサイズのものより板が走りませんでした。オンショアとサイドショア用では、それほどにパワーの差があるものなのでしょうか。

Aウェイブセイルには今もサイドショア用、オンショア用と(カタログ上)読み解けるセイル区分がありますが、その境界は昔ほど明確ではなく、今では相当に曖昧になっていると思います。

少し昔話をしましょう。昔、ウェイブの聖地はホキパであり、極端に言うなら世界は聖地ホキパとそれ以外で分けられていました。そしてホキパの風と波で最高のパフォーマンスが発揮できるように作られたものがサイドショア用で、それ以外の、日本を含むヨーロッパなど多くのゲレンデの、ホキパと比べればジャンクと表現できるところで使う用に作られたのがオンショア用でした。言い換えればそれはホキパ用と日常ゲレンデ用。ホキパ用は専用に特化していたこともあり、両者には大きな違いがありました。しかしその後、ワールドツアーの中心がヨーロッパに移動するなどホキパの聖地化は影を潜め(昔は皆こぞってホキパに修行に行っていたのに、今はさほどでもないことからもそれはわかるでしょう)、どんなゲレンデでもパフォーマンスが発揮できて使いやすいセイルが広く望まれるようになり、それに伴ってセイルも進化しました。その進化は、聖地ホキパでの使用にもベスト対応できる領域に到達しました。すなわち、昔のように声高らかに聖地ホキパ用=サイドショア用と訴える必要が無くなったということ。こうした側面から見ても、現在のサイドショア用とオンショア用の境界が曖昧になったのだと、なんとなくわかるでしょう。

性能的な側面から見ると、オンショア用の方が少しパワーがあると言えるかもしれません。なぜならオンショア時には波を越える際に体を支えてくれるだけのパワーがセイルに欲しいから。時として、デッドゾーンぎりぎりで止まりかけていても、それでも波を越えるだけのパワーが必要だから。

また(すべてのセイルに共通するわけではありませんが)、パワーポイントが少し高い位置に設定されていることもあります。それの方が体を支えるパワーを維持しやすいという他に、大波の時に波のブランケに入っても急激なパワーロスに陥らないためです。

こうした性能面を見ると、質問者が、オンショア用より大きなサイズを使っていたのにサイドショア用であることが理由で走れなかった、というのはまさしく利にかなっていると言えるかもしれません。

しかし今のセイルはチューニング次第ということを忘れてはいけません。アウトを緩めればそれだけパワーが増し、アウトを引けばそれだけパワーが少なくなるという今のすべてのセイルに共通するチューニングを考えれば、質問者が大きなセイルで走れなかったのはそれがサイドショア用であったからというよりも、チューニングに問題があったと考える方が自然だと思います。昔のセイルはどのようなチューニングをしてもパワフルなものはパワフルなままでしたが、今はパワーの操作を使い手が自在に(チューニングという手段で)コントロールできます。サイドショア用とオンショア用の境界が曖昧だ、という最も大きな理由はここにあります。

私事を言うなら、ホームゲレンデである逗子は今の季節、南西風が吹きます。それは出艇時の岸際でどオンショア、しかし実際にウェイブを楽しむ湾右沖の大崎ではほぼサイドショア。そこで、まずは岸際のオンショアを、横波を受けながらも沖に出て行きやすいようにアウトを緩めにセイルを少しパワフルにセットします。こうしてセイルパワーに体を支えてもらって横波をクリア。そして沖に出たら、サイドショアの大崎用に少しアウトを引き直します。出艇時のままだとパワフルすぎてボトムターンで引っ張られ過ぎたりして楽しめないからです。

これは出艇場所と乗るポイントが異なる場合ですが、今のセイルがチューニング次第でオンショア用にもサイドショア用にも完璧に対応してくれる性能を持つひとつの例として記してみました。ちなみに私の使うセイルは、サイドショア用でもオンショア用でもなく、ただの「ウェイブセイル」です。