レース系テイル形状の検証

2003年ニューフォーミュラボードの、実に半数以上のテイルがサンダーテイルになった。ここではサンダーテイルという固有名詞を使わせてもらうが、それは、一昨年からファナティックが提唱して実績を積み重ねた、テイルボトム面が深く「雷状」にへこんだ形状のこと。そこまで大胆では無いにしても、現段階(02/12月)ではバーレーヘッズFORMULA以外の全てのボードに何かしらのテイル面切れ込みが入っているのである。

写真はEXOCETのFORMULAテイル部。テイルボトム面が左右対に切れ込まれ、後ろから見るとその溝の深さは異常と思えるほど大胆。

普通に考えれば、テイルにデコボコがあったら速そうではない。その部分が抵抗になってスピードロスしそうな感じさえ受ける。しかし、そのイメージはまったく現実ではなく、サンダーテイルであるメリットは多大。そこでまずは、ボトム面の段差(ステップ)の効果について検証してみよう。

ボトムがテイル先端までフラット(平ら)な場合、ボトムに流れる水流は、水に接する面積すべてにおいて摩擦抵抗を作る。イラストの青矢印が摩擦抵抗となる水流だ。さらにテイルまで到達した水流は、テイルの先端を巻き込むようにして乱流を発生、この乱流がボードにブレーキをかけることになる。

しかしボトムに段差があると、イラストの青矢印のように水流は段差の角ではね飛ばされる。すると赤丸で示した部分は空洞となり、この部分の摩擦抵抗が減少する。すなわち上のイラストと比べて、ステップがあることで摩擦を生むボトム面が減少したということ。これはモーターボートデザインでは常識の理論で、それは特にスピードボートに幾つものステップが見られることからもわかる。

さらにスピードアップすると、ステップの角ではね飛ばされた水流は、テイル後端に乱流を発生させる間もなく、テイルを越えて飛び去ってしまう。すなわちこの場合、ステップからテイル後端までのすべてが摩擦抵抗から解放されることになる。さらにその効果は、モーターボートのスタビライザー的な役目も担って、乱流をも無くしてくれるのだ。

もちろん実際には、ボトムに流れる水流はノーズからテイルにかけて真っ直ぐではなくリーウェイによって斜めに流れ込むし、イラストのようにテイルが完全に水面から離れてしまうわけでもないが、おおよそのところこれがステップによるメリットの検証だ。

さらに、サンダーテイルのメリットはそれだけに留まらない。クローズなどにおけるテイルのグリップ力が増強するのである。

たとえばアンダーセイル時のクローズで、前膝を曲げないと角度が保てないシチュエーションがよくあるだろう。本当は両膝を均等に伸ばしてボードをホールドさせたいのに、前膝を伸ばすとベアしてしまうから仕方なく曲げてしまうという場面。しかしサンダーテイルがテイルグリップ力を高めてくれると、前膝を伸ばし気味にしてもアンダークローズが走れる。それはすなわち、アンダーでも、ジャスト時と同じフォームでテイルをプッシュしながら角度を稼げるということだ。

このテイルグリップ力は、サンダーテイルの(前後に伸びる段差の)角がキールの役目を果たすからだと想像できる。キールとは、たとえばダブルコンケーブの左右窪みの境目(頂点)などを示す言葉で、ボードの横流れ方向に対する引っかかりとなる部分のこと。すなわちステップが水面に(横方向で)引っかかることで、横流れが防ぎやすく、その分だけテイルのグリップ力が増加すると考えられるのである。

もちろんここに検証したことが全てのボードにイコールしているとは言えない。が、これほど多くのブランドのボードにサンダーテイルというデザインが浸透したことを考えれば、少なからずそこにはメリットがあることは間違いない。ステップ理論そのものは昔からあるもので、ウインドのボードにも20年も昔から幾度となく試されたデザインではあるが、セイルというエンジン性能の向上、ボードデザインの根本的向上を経て、現在に至って脚光を浴びたとも言えるのである。

こうしたテイルボトム面形状は、今後もさまざまに形を変えて試されるだろう。事実、EXOCETの03モデルスラロームボードであるBOOSTのテイルには、左右対ではなく真ん中にひとつの窪みがある。そうした新しい試みに興味津々であるとともに、益々われわれを高い次元のスピードへと導いてくれることに期待してしまうのである。